第68回 うちゅう戦争
202X年4月。幾度かの南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を経て、遂に我が国で「巨大地震警戒」が発表された。地震予知に懐疑的ながらも安全と思われる地域に移動する人、地区の指定場所へ避難する人、普段通りに過ごす人。対象地域には諦めと、不安と、それでも「まさかそんな事が起こるはずはない」の楽観論で、緊張の時を過ごしていた。だがその瞬間に、欧州やアメリカ大陸では、時を移さず全世界へと広がる異星人侵略が始まっていた。「クワイエット・プレイス・カタストロフィ」と呼ばれる、人類存亡の危機であった。
『うちゅう戦争』
【Day 1】地球外から突如飛来した異星人。全体数は不明だが、超高層ビルの外壁をよじ登り、高速走行の車に跳躍で追いつき襲撃する、四つん這いの異形の姿。前2本は鎌手で人を殺害。残虐な生物でありながら、柴犬の子犬顔だった。この日、世界で推定死者数200万人。
【Day 2】各国政府と調査機関により、異星人は、視覚能力が欠け、音に反応する事が判明。直ちに音を立てない「沈黙の世界」を実施しつつ、同時に国際協調の対策協議に着手。各地の紛争、戦争国が一時休戦を受け入れた。(『当日の日本側動向』異星人襲撃始まる。直前から料亭で密会中だった総理、副総裁、与党幹事長らは移動ができず、その場所に留まっていた。情報から誰もが音を立てぬよう細心の注意を払っていたが、庭のししおどしが「コ~ン」。全員死亡)。
【Day 3】異星人の動作は、さながら蜘蛛であり、個体や集団で襲撃する。各国の軍事攻撃ではあまりにも大勢の市民が犠牲となり、大規模作戦の遂行は継続できなかった。ドローン攻撃も失敗する。人類側の戦いは白兵戦の様相を呈していた。この日を含め推定死亡者数1000万人。(『当日の日本側動向』「巨大地震警戒」により避難所として人で溢れていた講道館も「沈黙の世界」に変わった。乳幼児を抱えた家族は地下室に移動し、残った人は予め音声を消され惨事と廃墟を映すテレビを観ていた。一部高齢者は音声なしでやっている『世界遺産』と思った。パリ惨状で五輪マークが残るエッフェル塔が流れた時、突如アフリカゾウが咆哮。しかしそれは、道場にいた半狂乱で泣き叫ぶ女子柔道家だった。全員死亡)。
【Day 4】絶対的な異星人の侵略は全世界に及ぶ。人類側の圧倒的な現代兵器すら、もはや無力に等しい。推定死者数1億人。絶望が覆う。(『当日の日本側動向』声も音も発せぬまま疲労に達し避難所で憔悴しきった人びと。体力の限界を超え、静かに去る人もいた。一人の男性が鼻をヒクヒクし、口を開け、天井を見上げ出す。隣の女性は青ざめ、周囲も「お願い、やめて」と必死の表情で訴える。しかし男性はスギ花粉症の薬が切れていた。小さく「ごめん」とつぶやき、館内に響く「いえっくし!!」の音。人びとが次々と襲われる中、ひとりの小学生が手元にあった濡れ雑巾を、咄嗟に異星人の顔へ押し付けた。耳をつんざく奇声を発し異星人は死んだ。部屋干しの生乾き臭を着た人を襲った異星人も死んだ。街中で雨に濡れた臭い犬と一緒にいた人も助かった。この情報は世界に発信され、異星人の攻撃ポイントとして一斉反撃が開始された。)
【Day 30】異星人は完全に殲滅され、一時休戦状態の関係各国も講和により終戦となる。世界は新たな異星人侵略の可能性に備え、国連を中心とした国際秩序を再構築することとなった。(『当日の日本側動向』異星人撃退の最大貢献国として、国連の場で日本への感謝と、国際的地位の授与が表されたその時、南海トラフ地震が発生。首都直下地震、富士山大噴火、北海道・三陸沖地震と、それぞれ最悪の想定ケースで連動し、太平洋側は壊滅した。)
【One year later】『日本側動向』世論の後押しと、各論反対、しかしその場所なら仕方ないかと総論賛成で (K都知事は、ゴネた) 、首都が福島となった。
「クワイエット・プレイス・カタストロフィ」その後
ノルディックサウンド広島
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