第67回 藪の中は灰色

歯周病菌が動脈硬化に関与と日本臨床歯周病学会が公表したり、ビフィズス菌が腸内フローラを高め、免疫機能向上に効果的と森永乳業が謳ったりと、人の体は小さな菌に大きな影響を受けているようです。

「家庭の医学」にも満たない私の医学知識ですが、おそらく私の体の中にはモヤモヤ菌(イメージはミニヨン)が潜み、加齢に伴うビフィズス菌減少に反して、年々増殖しているような気がします。モヤモヤ菌罹患症状は、初期は釈然としない事柄や発言に対し、無性に疑いの目を向けます。慢性期は昭和のカエルCM「おめぇヘソねえじゃねえか」よろしく「おめぇウソついてるんじゃねえか」と決めつけます。なるほどと腑に落ちれば改善、そうでなければ対象のモヤモヤは何年先でも継続し、その間に新たなモヤモヤが発生すると蓄積されるのです。これは末期です。

最長のモヤモヤは、私もまた1985年8月12日 JAL123便墜落。毎年のニュース報道でも節目の年以外は大きく取り扱われなくなりましたが、今なお墜落原因に対し、書籍やSNS上で見解が交わされます。公式には「後部圧力隔壁損壊説」。対する1993年、書店で『疑惑JAL123便墜落事故』(角田四郎著)の内容に驚き購入した「自衛隊ミサイル説」。おそらくこの本を発端に後者説に関する類似著作物と考え方が広まった気がします。両説ともに否定、肯定論争がテレビや新聞以外で繰り広げられ、また真相究明を求める遺族側裁判、事故調査報告書の解説に対する日本乗員組合連絡会議の疑義も出されました。また独自のシミュレーション結果と考察に基づく新たな「気化燃料爆発説」を、ネット上でcooyou.org氏が述べています。

リアルタイムで共有した衝撃的なジャンボ機墜落。当日夜、私は自宅でTBSテレビ『クイズ100人に聞きました』「あるあるあるある」の真っ最中。突然画面に日本航空機消失速報が流れます。当時は大事故や大地震でも即時に番組は切り替わらず、NHKでも少し間を置き報道番組が始まりました。

「R5ドアブロークン」から航空評論家や専門家の事故原因推測、搭乗者名簿公表、まさかの翌日正午前フジテレビの生存者発見現場中継。報道は刻々と進みます。ただ当夜、随時速報で流れる墜落場所に関する内容が発表ごとに変わっていき、「ぶどう峠」「三国峠」「御座山」等の地名や、管轄各県警の現場確認動向から、まさに「錯綜」の印象でした。消失から早い時間に米軍機が上空から撮った山中の炎の映像か写真をNHKで観たのに、私が未明に就寝する時も「錯綜」は続いていました。そして翌日から新聞に載るJAL123便航跡図も、日ごと違っていた記憶があります。

1985年はインターネットがなく、新聞、雑誌、テレビの情報がすべての時代。それを信頼していた時代。翌年出版された『墜落の夏』(吉岡忍著)で「圧力隔壁損壊」による墜落として事故全容を知り、1998年『墜落遺体』(飯塚訓著)で壮絶な検視と身元確認の現場に衝撃を受けました。しかし早い段階から「圧力隔壁損壊説」を疑う多くの関係者がいたとは、当時は知りませんでした。

モヤモヤが続くのは、「自衛隊ミサイル説、本当かも」と私も疑うからです。事故調査委員会の原資料一部破棄、重要な相模湾海底残骸調査も墜落から2ヶ月後に実施し、20日間のみ。2011年7月、疑義に対する解説書の公表には「原因究明の観点から『コスト』に見合うほどの残骸の発見は期待できない」と再調査否定を明記。ボイスレコーダー解析には航空自衛隊航空医療実験隊も関わっていました。

「大本営発表」と揶揄される、あるものをないと言う、公文書を改竄する、不都合は隠す、都合が悪ければ無視と、昨今の自己と組織保身の「方程式」がモヤモヤ菌罹患の私に、JAL123便墜落も「ほら、同じ」と思わせるのです。

真相は藪の中。そこは灰色の世界。来年は墜落から40年です。水深3,800mの海底で発見されたタイタニック号が、二つに折れて沈んだことを証明し論争を決着させたように、最新の機器で相模湾の再調査とボイスレコーダーの生データを公開し、どうか私の末期モヤモヤを治していただけないでしょうか。

坂本九『心の瞳』(作詞 荒木とよひさ、作曲 三木たかし、編曲 川口真)。夏空のように真っ青で一点のモヤモヤもない歌です。


夏休みお勉強会

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