第64回 小学6年生 小園結菜の憂い

私には幼稚園からずっと仲良しのM.M君がいます。小学校に入った頃はクラスが違いましたが、3年生からは同じクラスです。M.M君は小さい頃からおっちょこちょいで、人懐っこい性格で、雨上がりにタケノコをみつけることが得意でした。私のことを「ゆいちゃん」と呼びます。でもお父さんとお母さんのことは「オトン」「オカン」と呼んでいました。すぐ「なんでやねん」が口ぐせで、いつも面白いことを言って笑かしてくれました。

そんなM.M君の様子が変わったのは、2年前の春休みが終わった新学期からです。姿が別人になりました。体が青くなりました。顔が赤く大きくなりました。いつも口が開いています。両腕に「こぶ」が垂れました。眼が5つになりました。驚いたのはM.M君のお尻に眼が生えていたことです。クラス中が騒然となり、学校中大騒ぎになりました。

とても悲しかったのは、私が「M.M君」と呼びかけても、授業中に先生から質問されても、友達から話しかけられても、何も言わなくなったことです。最初は心配していたクラスメイトも、席がM.M君の後ろの人とかは「顔がでかすぎて黒板が見えん」と怒ったり、隣に座る人も「眼がこちらを向いている」と泣き出すようになりました。クラスLINEや、M.M君を見た人の「怖い」「不気味」「キモい奴」との書き込みもたくさんありました。私はM.M君がいじめに遭っているとわかったのです。

家でおじいちゃんにこのことを話すと、猫の「桐壺」のヒゲを切ろうとしていた手が止まり、しばらく黙っていました。そして「M.M君はショッカーに、改造人間にされたんだ」と怒りました。私は何もわからないので「おじいちゃん、どういうことなの」と尋ねました。

「おじいちゃんが結菜と同じ年齢のころ、ショッカーという悪の集団が人間を捕まえて、怪物の姿に変えたんだ」「ショッカーはずいぶん前に消滅したが、最近大阪でネオ・ショッカーが復活したようだ」「M.M君はその犠牲者になってしまったんだよ」。そう言っておじいちゃんは泣いていました。私も泣きました。

「おじいちゃん、私、どうしたらいいの」と尋ねました。こんどは少し笑いながら「結菜は今まで通りM.M君の仲良しでいなさい。M.M君はなんにも悪いことをしていないんだよ。いいかい、M.M君が結菜にいじわるをした?」。私は答えました。「ううん、していない」。「M.M君が周りに迷惑をかけた?」。こんどは大きな声で答えました。「ううん、ぜったいしていない」。「結菜が仲良くしていたら、きっと皆もM.M君は悪くないと気づいてくれるよ。もしかしたら、また話が出来るようになるかもしれないね」。私は「なんでやねん」のM.M君を思い出しました。そしてぎゃあぎゃあと嫌がっている「桐壺」のヒゲを切るおじいちゃんに、「私も、M.M君と話がしたい」と答えました。

うれしいことが起きました。朝教室に、M.M君が入ろうとした時、小さく「こっ、こんにちは」と声を出したのです。教室にいた人は「えっ!!」とM.M君を見ました。するともう一度「うううう、こっ、こんにちはー」と大声で叫びました。私は「朝だからおはようだろう。なんでやねん」と泣きながらツッコミを入れました。

結菜とM.M。幼稚園の「坐禅」遠足にて 

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