第59回 ドキュメント《その時、私は》

期せずして第56回、第57回と続く、この「昭和の香り日記」では『TBS報道特集』『NHKスペシャル』に相当する内容と我はご満悦の、シリーズ《実家地区の過去と現在から、今の日本を考察しましょう》。今回は「その時、私は」で、れっつらごー。

2023年10月1日早朝。人口約2万6千人、世帯数約13000。我が出生と成長の地で、早起きお年寄りたちが異変に気づく。「み、水が、水がぁ~、出ん」。60歳以上の高齢者が、全住民の3割以上を占めたこの町の上水道管が破損。予想最高気温真夏日一歩手前の日曜日に、中心街を含む9000世帯以上が断水となった。広島市内に住む私がこの状況を知ったのは、正午前。ジャン=フランソワ・ミレー風絵画《仲秋の朝、水洗便器に嘆く人》が浮かんだ。テレビのローカルニュースや、更新されるネット情報から事態の推移を見守りつつも、パニック映画好きの私の血は騒ぐ。しかし現実は、災害時緊急退避施設にもなる、便器が多数の大型商業施設でも、一部トイレのみ緊急時使用の制限が設けられ、約3㎞離れた系列の食料品店では、商品袋詰め台前面ガラス張り眼前に簡易トイレが並ぶ、シュールレアリズムがあった。

地元自治体が設置した5箇所の給水所、4箇所の仮設トイレには住民の長い列。顔見知りの方もおられたはずだが、ここに来れない独り暮らしの高齢者、車が通れない坂や高台に住む高齢世帯は、トイレをどうしたのだろう。ちなみに娘家族と同居のお向かいさん宅に電話をかけると「飲料水は孫と給水所に貰いに行ったよ。トイレはたまたま風呂の残り湯があったから、それで流しとるよ」と言われた。この断水時、母が実家におらずに良かった。面倒くさいことにならずに本当に良かった。大規模断水は、その日の21時頃に完全復旧した。

翌10月2日月曜日の朝。当初から予定していた用件のため、私は実家に戻った。地元駅に近づくJRの車内から、実家や給水所設置の公共施設が見えた。血が騒ぐ。昨日ここでパニック映画シーンがあったんだ。向かい側ホームで広島方面の列車を待つ人びとは、そこから生き延びた人たちなんだ。半袖の学生。上着を着た会社員。季節を先取りしマフラー巻きのお洒落さん。今日は夏日になるのに。暑いのに。それでも私にとってこの人たちは、特別の存在だった。

断水原因は、自治体発表の経緯によると、70年以上経過した管口径35㎝水道管の老朽化による破損で漏水が発生し、管内の水圧低下と主要配水池の水位低下だった。原因箇所の上水道がJR駅から実家への道沿いにある、幅2m位の小川 (昔はドブ川) の川底に埋めらていた事に驚いたが、横1m位のひび割れと10㎝位の数箇所の穴で大規模断水へと拡大したことに、現在の老朽化インフラ問題を痛感した。同時に、2016年ネズミらしき動物が通信ケーブルをかじり、首都圏JR大混乱の「チュウチュウパニック」を思い出す我であった。

【暗く重苦しいナレーションで】「諸問題を抱え、さまざまな分野で衰退と凋落傾向にある日本。五輪や万博開催、巨額投資の統合型リゾート(IR)推進が、果たして、今、望ましいのであろうか。高度成長期に完成し、私たちの生活と豊かさを支え続けた各所のインフラが、これからは一斉に脆弱化し危険となる。大勢の死傷者が想定される事態の可能性を、私たちは伝えなくてはならない」。「(さんはい) ♪よーく考えよ~(考えよう)お金は大事だよ~(大事大事)うーう うーう うううー」。


かつての人気オピニオンリーダー、故・竹村健一氏

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