第56回 地区は曼荼羅の世界

学生から社会人となった翌年、いすゞ「FFジェミニ・セダン」との択一で休日はひとりディーラー巡りと試乗を繰り返し、迷いに迷い、悩みに悩んで、初めての新車購入に選んだのがホンダ「クイントインテグラ・セダン」。ボディーカラーは白。購入資金内訳は自己資金5/3、その当時は母も免許保持者だが、平日に私は車を使用しないため、今までどおり車は一家に1台で十分と母5/1、ひとり暮らしの祖母が「用事の時には、乗せてもらえんか」と5/1出資してくれた。私の猛反対にも「お金を出すんだから。角をぶつけそうになるんよ」と母が押し通し、嫌嫌フロントバンパーに電動格納式コーナーポールを付けて納車1週間後の朝。2階で寝ていた私へ、ガリガリガリの音に続く母の「あー」の叫び声。はらわたが煮えくり返る私と母との言い争いが始まり、遂に母は「それなら自分の車を買うよ」と本末転倒の言葉を発して、数日後軽自動車に乗っていた。今から36年前の事である。

そんな車にまつわる、今も釈然としない思い出が、高速道路建設立ち退き者用代替団地のひと区画に建つ築40年の実家カーポートに残ります。周囲を歩いても、この地区の家並は当時とほぼ同じ状況です。しかし各家の住人は大きく変わりました。ほとんどが、子世代は家を出て、高齢の親世代だけで暮らしています。そして夫婦揃ってご健在はわずかなようです。自動車免許を返納し助手席に座る母の「ここの奥さんは死んだ。主人がひとり暮らし」「ここは主人が死んだ。奥さんはひとり暮らし」「ここは施設に入った。今は空き家」ガイド付きで団地内を通り抜ける、これを毎回聞かされる私は「聞か猿」でした。

正月やお盆時期に実家に戻ると、地区の道路には見慣れない車が多く駐車しています。フロントマスクが巨大なおろし金のミニバン。軽オフロードSUV等。子世代一家や、お年玉・お小遣い目当ての「孫」「ひ孫」たちの帰省でしょう。ふだん私が地区の道路でよく見かける車は、各介護施設からのデイサービス送迎車。介護支援の打ち合わせで来訪中と思われるケアマネジャー所属先施設の車と福祉用具レンタル会社の車とのセット。車椅子のまま乗降する福祉車両。先日は、最近までご夫婦揃って自家用車でお出かけになっていたお宅の前に、介護支援の車セットが停まっていました。

実家台所からは宮島(の端っこ)を借景に、隣家と道路向かいに並ぶ家々6軒が見えます。実家を含めそのうち4軒は、ご夫婦とも他界、もしくはどちらかが既にお亡くなりの家です。最近は玄関に「忌中札」を貼らないのではっきりわかりませんが、団地外の地区もきっと同様でしょう。ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ まんまんちゃあん‥‥‥‥。

【 (注) 夏休み。決して、犬好きのお子様に、ここからは読ませないでください】 実家への近道で団地内の急坂な階段を使う。登り切った正面の家から私に向かっていつも犬が吠える。帰りも吠える。静かになる日を待ち望む。

インテグラの次に買い換えた(最後の車は) フィアット・ウーノ5ドア後期型中古車

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