第46回 耳

八月。齢六十 (還暦)。祝いは誰からもなかった。私に新たな心構えは毛頭なく、変わらぬ毎日だ。短時間で広島の「中国新聞」紙面を読み飛ばし、加齢と健康の全面広告で、私はとまる。《めぐりを止めるな!パンパン足の原因は体に溜まった老廃物。すごい葉見つけた 赤いブドウの葉が悩みをスッキリおそうじ》《雑音の悩みがスッキリ! ハツラツ! 希少で栄養豊かな”女王蜂”の蜂の子のパワー!》《目のぼやけが気になる 太陽やテレビの光がつらい 昔はもっと鮮やかに見えていたのに》《ぐったり、くたくた?夏の疲労感に元気の1本》《足を乗せることで、歩くときに使う筋肉が鍛えられる~将来元気に過ごしたい方はすでに始めています! 日本最高齢フィットネス・インストラクター 91才タキミカさんもおすすめ》。タキミカさんて、誰ですか。《関節の今の痛みに効く&軟骨もケアする同時対策。違いはココ!アクテージHK錠、3つのポイント》。価格を確認する。私はこれら商品との関係を一切絶つ。 

私の老化プロセスを丁寧に説明しよう。ベビーブーマーの私からZ世代へ、先ざきのお役に立てば良いのですが。フェーズ1「眼」。10年くらい前からだろうか、近視用コンタクトレンズでは小さな文字が見えにくくなる。度数を下げつつ手元の見え具合を調整するも、日常は遠近両用メガネに至る。フェーズ2「膝の関節」。6年くらい前からだろうか、右膝の関節が痛み出す。5年前、積雪の五日市の高台から平地の広電楽々園駅に向けて、30分ほど慎重に坂道を下ったその翌朝から、右足を真っ直ぐ伸ばさなければ屈めない。整形外科で膝の水抜きを2回、その痛みでお肌は潤わず目が潤むこと2回。現在は毎月のヒアルロン酸注射の日常に至る。

フェーズ3「耳」。2年くらい前からだろうか、店の台所で換気扇が回っていると、側で話しかけられても内容が聞き取れない。私が悪いのに、会話主に対して「イラッ」とする。或いは朝の排便時、トイレの換気扇が回っていると、扉を開けているのにラジオの音声が聞き取れず「イラッ」とする。思い返すと私が20代の頃、高齢の上司とかに「もう少し大きな声で話してくれないか」と怒られたことがあった。この「ちょっと理不尽な」が、今の私。自戒をこめて心する。

最後にZ世代の皆さん、配信やラジオから流れる「昨今の歌」はいかがでしょう。遺憾ながら私の耳では歌詞を聴き取れない。子供の頃から歌詞がメロディとなり、自然と「耳」で覚えた歌に慣れているせいか、旋律が飛んで跳ねて裏返り、何を言っているかわからない「歌」を聴くと、やっぱり「イラッ」とする。男性更年期障害だろうか。本当にバナナが良いのだろうか。 

聞こえない人びと 1、2

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聞こえない人びと 3

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