第44回 分葱(わけぎ)クリニック

超高層ブルジュ・ハリファも映るドバイ上空。院長自らが操縦するヘリコプターを空撮で追った、有名美容クリニックのテレビCM。「なんや、自慢話かい」。ボソッと呟く分葱(わけぎ)クリニック院長 分葱半夏生 (はんげしょう)。その分葱クリニックも、テレビCMを流した時期があった。草津温泉・実演湯もみガールズのひとりに背後からカメラが近づくと、振り向いた分葱院長が一言「ウイ、分葱クリニック」《草津温泉・湯もみ篇》。指宿温泉海岸、仰向けで首から下が砂に埋まった人々のひとりにカメラが近づくと、胸の位置にオッパイを盛った分葱院長が一言「ウイ、分葱クリニック。」《指宿温泉・砂むし篇》。CMは身内にも不評で、契約途中で放送を打ち切った。「院長、午後の診療時間です」。看護師の呼びかけで、分葱院長は診察室に向かった。

「織葉さん、これが今回の健康診断結果です。血糖値、血液検査、メタボリック判定、どれも問題ありません。日常生活で心がけていますね」「ありがとうございます。あと先生、この特記事項欄なんですが」「ああそこね。気にしないで。織葉さんは他の人より染色体数が多いだけです」「はい?」「人間は46本です。生物の授業で習いましたね。でも織葉さんは104本でした(笑)」「そんなにあるんですか?」「104本は金魚の染色体数です」「先生、私は人魚じゃなくって金魚になるんですか?」「上手いこと言いますねぇ(笑) そのうち首にエラもできますよ。そうなればエラ呼吸が可能です。織葉さん、あなた、水中でも生きていけるんですよ」「まるで半魚人ですね」「イメージは間違っていません(笑) ところで織葉さん、泳ぎは得意ですか?」「全くだめです」「では今後に備え、スイミングスクールで泳ぎを練習しましょう。いいところを紹介しますよ(笑) 今、お友達紹介キャンペーン中なんです(笑)」「先生、ありがとうございました」「はい、お大事に」。

「右側を上げてください。次は反対側を。腹部も診てみましょう。全身傷だらけですね。岩倉さん、この鳩はどうされましたか?」「メルは優秀な伝書鳩なんです。極秘任務も遂行してるんです。でも高所恐怖症なので、いつも高さ1mを飛ぶんです。だから路地から飛び出す子供や、一時停止を守らない車と衝突して、よく怪我をするんです。なのに責任感が強いから『コノクライノ傷ハ、大丈夫ダヨ、オ父サン』って無理して飛んでたんですよ。そしたら動かなくなって」「岩倉さん、メルさんは喋るんですか?」「喋りません。でも目を見ればわかります。私を『オ父サン』って絶対呼んでます」「岩倉さん、メルさんの心拍数が低くなりました。聴診器で聴きますか」「聴かせてくださいっ!!」「心音しか聴こえませんが、どうぞ」「メルっメルっお父さんだよ、聞こえるかっ!! 『オ父サン、今マデアリガトウ。メルハ、シアワセナ ハトデシタ。サヨウナラ』心音がそう言ってますっ!!。あっ、止まった。先生止まりましたぁ!!」「ご臨終です」「メルーっ、大空高く舞ってるんだな~っ!!、メルーっ!!」。

分葱クリニックは動物から人間までを網羅する、全国的にも珍しい総合クリニック。院長分葱半夏生は岩倉さんのこの様子を見ながら、値上げ前にケンタッキーフライドチキンを食べておこうと思った。

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