第41回 AI・ATM vs AI・セルフレジ

(♪トゥナ~イ トゥナ~イ イット オール ビーガン トゥナ~イ‥‥)。男女が熱く見つめ合い、カタカナ英語で《Tonight》歌う週末のショッピングモール・イベント広場。通りすがりに一瞬立ち止まる、買い物客の冷めた視線。セリフも始まり二人はさらに熱くなる。「トニィーッ!!」「マリアー!!」涙と唾の熱演に観客は引いた。この光景を片隅のAI・ATM no.2 は無言で見ていた。気づくと目の前に横柄そうな高齢の男性が立っている。ATMは仕事に取り掛かった。「イラッシャイマセ ゴキボウノボタンヲ オシテクダサイ」。横柄そうな高齢男性の携帯電話が、突然鳴り始めた。「なんや?ちょっと待ってみーや」。思った通り横柄な男だった。ATMの操作もせず、カバンから黒革の手帳を取り出し話し続ける。「じゃけぇ~言うたじゃろうが。しばいちゃろか、ほんま」。怒気を帯びた大声でさらに続く。応対するAI・ATM no.2 は性格が短気のようだ。イラついた音声で男を促した。「イラッシャイマセ ゴキボウノボタンヲ オシテクダサイ ニドメダヨ」。男はATMを無視。電話相手と話し続ける。漸く用件を終えた男は、荒々しく操作をし始めた。「キンガクヲ イレテクダサイ」「フリコミナイヨウヲ ゴカクニンクダサイ」。「うるさい !!。いちいち指図するなや !!」。その一言でATM no.2 は黙った。黙って男の通帳とキャッシュカードを飲み込んだまま、わざと故障した。

この光景をすぐ近くの食品売り場から、AI・セルフレジ『ヒツジさん』が見ていた。そして隣の『ヒヨコちゃん』に話しかけた。「ATMハ(メ~)モウ ジダイオクレ(メ~)ナノニ(メ~) オキャクニ(メ~) アンナタイドヲトレバ(メ~) マスマス(メ~) テッキョサレルヨ(メ~)」。『ヒツジさん』は商品のスキャンごとに金額と「メ~」を叫ぶため、職業性疾病で日常会話も「メ~」が出る。同様に『ヒヨコちゃん』は「ピヨピヨ」だ。向かいの『ネコちゃん』は子供の人気者だが、子供が嫌いで若いイケメン好き。タイプが来ると猫撫で声で応対する。斜め向かいの『ワンちゃん』は愛嬌があり、よく数字を一桁多く間違えるムードメーカー。彼らは後面に『TEAM  セルフレジ』のステッカーを貼り、古参のATM一掃に闘志を燃やす。対して歯抜けのブースが増えつつあるATMたちも、自ら『マネーロンダリング JAPAN』と呼び、新興セルフレジのスペース拡大阻止を画策していた。週末のショッピングモール・イベント広場界隈。かかる緊迫した状況には気づかず、本日3回目公演でも「トニィーッ!!」「マリアー!!」とふたりの世界に浸る男女から飛んだ大量の唾が、観客を直撃した。

 ウエストサイドストーリー 《マンボ》[ジャポネスクバージョン]。

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