第38回 追悼《Sunday》ソンドハイム・ミュージカル

クリスティーヌに仮面を剥がされ「おめえ、何するんじゃ」の『オペラ座の怪人』とか、ファーストレディーなのに日本人記者から「伊勢エビはお好きですか」と質問されそうな『エビータ』とか、猫のうんちだらけで街は臭そうな『キャッツ』とか、「劇団四季」翻訳公演の影響か、日本では英国ロイド=ウェーバー作曲のミュージカルが、よく知られています。《メモリー》はスタンダード曲ですし、『オペラ座の怪人』《マスカレード》は映画版・舞台版ともに絢爛豪華な振り付け場面です。でも劇団四季はいつも滑舌はっきり、機械的で不自然な台詞回し。《マスカレード》は「誰が 誰なぁ~のか わぁ~からない、誰が 誰か わから~ないよ」と、私もわからない歌に変わります。私、今、劇団四季をディスリスペクトしてませんよね。

ロイド=ウェーバー作品の他にも、ディズニー・ミュージカルやクロード=ミシェル・シェーンベルグ作曲の『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などが世界各地で舞台上演され、演奏会も行われています。11月に亡くなった米スティーヴン・ソンドハイム作詞・作曲のミュージカルは、オペラハウスでも上演されるほどの高い評価。私はソンドハイムの音楽が大好きです。バッチグーでチョベリグです。

私がミュージカルを聴き始めた経緯を説明します。サウンドトラック(映画音楽)が好き → ジョン・ウィリアムズが映画『イエス・ジョルジョ』の主題曲を書く→ サントラ盤を買う → 主演がパヴァロッティ。オペラ『トゥーランドット』の場面を収録。かっこいい音楽だ → オペラを聴きだす → ミュージカルを聴きだす。まっとうな流れですね。

近年、ソンドハイムの『イントゥ・ザ・ウッズ』『スウィーニー・トッド』が、それぞれメリル・ストリープ、ジョニー・デップ主演で映画化もされました。そして『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』『リトル・ナイト・ミュージック』。これら4作品は、評価は元より人気も高く、米英の学校や地域の団体が独自の演出で上演しています。『イントゥ』と『サンデー』は私も最も好きなソンドハイム作品です。

ソンドハイムの歌曲はセリフを韻を踏む歌詞の形式で成り立たせ、言葉の抑揚を旋律に生かしています(と、英語がとってもわかる人から教わりました)。ロイド=ウェーバーやシェーンベルグのように、覚えやすく流麗なメロディーの連続とは少し違います。4作品は、日本でも然るべきプロダクションで翻訳上演されており、今後も公演予定がありますが、ソンドハイム作品を日本語に訳して上演するのがもともと無茶です。でも無茶を平気でやってしまうのが「日本エンターテインメント界」の凄いところ。それでなくても翻訳ミュージカルは「日本語」が歌えないと舞台には立てません。全世界から集まった大勢の人々の中から「歌と踊りと演技」の厳しいオーデションを突破して役を勝ち取る「ブロードウェイ」や「ウエストエンド」とは違います。私、今、日本ミュージカル界全体をディスリスペクトしてませんよね。

スティーヴン・ソンドハイムのミュージカル。毒があってウィットに富んだリリカルな作品です。「英語がわかる人はより面白く、私みたいにそうでない方はそれなりに」どころかとても胸を打つナンバーで、劇中の登場人物が語りかけます。だから今、ソンドハイムの『Sunday in the Park with George』の《Sunday》を聴くと、私のドライアイは涙目です。


『スウィーニー・トッド』1979年オリジナル舞台版(演出ハロルド・プリンス)

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『スウィーニー・トッド』2007年映画版(監督ティム・バートン)

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