第34回 エビデンス霊園墓地にて
《人生は100年時代。だが、マスコットキャラクターの平均寿命は短命である》
墓前におはぎを供え、手を合わす人影。人影だろうか。身体の2分の1が頭。背中には航空力学に反する、異様な羽根が生えている。薄汚れ、綻びの目立つこの生き物は、ひとり墓石に語りかけた。「アビ丸(※1)久しぶり。一緒に『ちから』(※2)のおはぎを食べよう」。
(※1)1989年「海と島の博覧会・ひろしま」マスコットキャラクター。地元金融機関マスコットに華麗なる転身後、経営統合により解雇。(※2)広島市民馴染みの地元うどんチェーン店。おはぎも美味。そば専門店もある。
「アビ丸、あんたアビなのに、皆からアヒルと勘違いされとったの」「あんたが生まれた、あの地方博ブームは何だったんかのう。全国各地で競って博覧会を開催しとったが、異常よ。テーマは違えど、企業パビリオンも結構使い回しがあったの」「それとリゾートブーム。国の補助金で各地に類似した施設を整備しよったが、もとの美しい天然砂浜が細ってダメになる海水浴場もあったの。変よ」。ここで自分のおはぎを口にした。口が大きいので一口で食べ終わった。「結局物質は豊かじゃが、本質は貧しかったんじゃの」。それからお供えのおはぎを取り上げた。「仲間は大勢できたが殆ど死んだよ。アビ丸、それじゃあ」。血糊の付いた大きな頭に懐中電灯を巻き、背中に鉄砲と斧の羽根が生え、足袋に褌姿のこの生き物もまた、かつて人口349人の過疎村イメージキャラクター「多治見要蔵さん」である。多治見要蔵さんは、取り上げたおはぎを持ち、少し離れた墓へ移動した。墓石には「戒名;晴天殺烏雄鳩・曇天死食毒茸雌鳩 / 俗名;ポッポとクック(※3)」と刻まれていた。
(※3)1994年、広島市で開催した「第12回アジア競技大会」雄と雌のマスコットキャラクター。たぶん2匹は(子供たちには言えないが)できていた。
多治見要蔵さんは、さっきのおはぎをここに供え、2匹の立像をした墓石に語りかけた。「ポッポとクック、久しぶり。あんたら鳩なのに、皆からアヒルと言われとったの。初めて会った時、わしもそう思ったで」「94年からそのまま残っとるあんたらの像を、この前広島市内で見かけたんじゃが、汚らしかったで」。多治見要蔵さんは、自分の不気味な姿は直視しない性格である。「いきなりじゃが、ちゅーピー(※4)は、皆からあんたらの隠し子と言われとるが違うんか。そっくりじゃが」。多治見要蔵さんは見かけによらず、ゴシップ好きである。「それじゃ、帰るで」。お供えのおはぎにはアリが3匹寄っていたが、そのまま食べた。
(※4)広島市に本社を置く地方有力紙のひとつ「中国新聞社」マスコットキャラクター。この新聞社は、福田康夫首相辞任会見で「あなたとは違うんです」のブチ切れ発言をさせたことで有名。
エビデンス霊園墓地は、マスコットキャラクターの霊園墓地。一世を風靡したキャラクター、不人気のキャラクター達が眠る唯一の場所。ときどき霊園墓地の主題歌が流れます。
「千の風が吹こうが 万の風が吹こうが 私はベットで眠りたい
君はこんなところで死なないよ 温かいベッドで死ぬんだと
ジャックはローズに言い残し 海の藻屑となりました……」
エビデンス霊園墓地へいらっしゃいませ
ノルディックサウンド広島
Facebook https://www.facebook.com/98.nordic/?modal=admin_todo_tour
この記事へのコメント