第20回 マスク売りの少女

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「マスクはいかが。マスクはいかが。売れ残ったマスクはいかが。引き取り手のないアベノマスクもいかが」。夜の街に、売り声が虚しく響きます。マスク売りの少女は手に提げたカゴを見つめて、「1枚も売れない」。そう嘆きました。

マスク売りの少女の前職はマッチ売り。流しのマッチ売りで立ち寄ったバーやクラブがコロナ禍で廃業・休業となり、千鳥足で「うちにけえろう敬老会」とダジャレを飛ばす路上の酔客(たいていはオヤジ)も消えて、「先が見えない」とやむなく転職しました。

今年は昨年までの暖冬から、寒さの厳しい冬へと変わり、少女の手足も凍えます。「ここにマッチがあったなら」。昔、少女が1本マッチを灯すと暖炉の光景が、もう1本灯すとごちそうの並ぶ食卓が、幻影として現れたのです。そのマッチは今、少女は持っていません。試しにカゴの中のマスクを1枚取り出しつけてみました。すると、体操の内村航平選手の幻影が現れました。「できないではなく、どうやったらできるか皆さんで考えて…もし五輪がなくなってしまったら、大げさに言って死ぬかもしれません…」。

マスク売りの少女はイライラしてきました。実は彼女は二重人格者。空腹になると「凶暴」が出てきます。「フザケンナ ボ(ぴー) 。ソモソモフクシマヤ カクチノヒサイシャガ ミカイケツノママナノニ オリンピックナンカスンナヤ ボ(ぴー)」。ハアハア、ゼイゼイと肩で息をする少女。新しいマスクに交換してみます。今度はお年寄りが大勢現れました。皆が同じ事を言ってます。「人類がコロナから勝った証として…」。「フザケンナ ボ(ぴー)。ダイタイトウキョウオリンピックナノニ トウホクフッコウノシルシトカデ ショウチシタンヤロウガ イツカラ コロナニナルンヤ ボ(ぴー)」。

さらにもう1枚、新しいマスクに交換してみました。現れた幻影は「アベマリオ」でした。「ウギャ~」。少女の目の前は真っ白となり、そのまま倒れてしまったのです。

翌朝、街のカラスがゴミをあさる路上に、少女の体が横たわっていました。近くの交番へ出勤途中の警官がみつけて駆け寄り、声をかけました。マスク売りの少女は、息絶えていませんでした。激昂でメガネが曇り、意識を失ったのです。「凶暴」が隠れた少女は弱々しく「お腹がすいた」と声を出しました。警官は、昼食用にと買った自分のパンを食べさせ、事情聴取を始めました。マスク売りの少女は警官が記録をとっている間に、お礼にと彼の鞄に、そっとアベノマスクを入れました。

街のカラスはゴミをあさるフリをして、終始二人の様子を見ていたのです。


街のカラス。その正体は…。

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