第12回 劇場版『鬼滅の刃』に乗じて

ノルディックサウンド広島 10月25日

「アッと驚く為五郎~」。全国で何十年ぶりかにこのフレーズを口にした、映画ファン・業界関係者がどれほどいた事でしょうか。劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』興行成績、公開3日間で46億円越え。コロナ感染対応で座席販売数を半分にしていたイオンシネマ系があってこの数字です。ここが全席販売だったら、55億を超えていたかもしれません。SNS上の上位検索キーワードも「鬼滅の刃」です。それなら「鬼滅の刃」を取り上げると、ここへアクセスが増えるかな。そうすると、CDの売り上げが増えるかな。

あらためて46億円越えが、日本映画市場でどれだけ驚異的な数字だったのか。わかりやすく言えば、東京線が150席クラスの小型機で、日に4往復程度の全国の地方空港が、3日連続で300~400席クラスの大型機を中心に、30~40往復全便満席状態になった訳です。劇場ロビーは「密」を掲げた小池東京都知事が立っていそうな混雑ぶり。劇場関係者はクラスター予防対策で大変だった事でしょう。

ところで劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』の口コミレビュー、テレビ出演者のコメントは「最高」「感動」「号泣」「後世に語り継がれる名作」で溢れています。『君の名は。』『シン・ゴジラ』と同じです。脇にそれました。劇場版『鬼滅の刃』です。私は観ていません。私の『鬼滅の刃』の情報は、ウィキペディアと映画の予告編、テレビシリーズ総集編2作です。テレビ放映時第一夜<兄妹の絆>は冒頭のみ、第二夜<那谷蜘蛛山>は後半からはチャンネルを切り替えながら観ました。

内容はシリアスです。人の心を辛うじて残し鬼と化した妹を元の人間に戻すため、中学生から高校生くらいの主人公達が、元人間の訳あり鬼達を殺しながらの成長と苦難の物語。『ハリー・ポッター』『ロード・オブ・ザ・リング』ではありません。「ここが名セリフですよ泣きですよ」と万人に教えてくれる演出。鬼の首が胴体から切り落とされ消滅までの間、生首が子供達に語りかける『八つ墓村』的シュールな描写。物語の流れと同化しない「異質なギャグシーン」。劇場予告編中のフルCG無限列車やウネウネのなめらか過ぎる動きのリズムが、創作ダンスでテンポを取れずに全体から浮いてしまった残念な生徒を思い出させます。原作・制作スタッフ・声の出演に大きな変更がないため、予算や映画としての構成の違い等があっても『無限列車編』の作品の仕上がりは、テレビシリーズとそれほど変わらないと思います。私の感想は、これ以外でも映画を見た数少ない低評価の口コミレビューと同じでした。

「号泣」「感動」。2000年代に入ってから、特に実写版邦画の感想で見かける様になりました。1950年代・60年代・70年代初期、広く世界に影響を与えた日本映画の遺産を使い果たしたあとに登場した新生日本映画。『Limit of Love 海猿』『ルーキーズ』等の単調な喜怒哀楽表現、安易なセリフとテレビの最終回近くでもよくある「泣かせのための」物語展開。これらに心から感動し繰り返し見る人がいて、否定的、批判的な意見を述べる都合の悪い人を表舞台から消す大人達がいて、結果、様々なところでクオリティー低下の「負の連鎖」が進んだように思えます。コロナ禍の特殊な状況下での公開といえ、『鬼滅の刃』の記録的数字は、これらも遠因にあるのではないかと私は考えます。少なくとも高畑勲監督の遺作『かぐや姫の物語』の様な芸術性と娯楽性が高い次元で融合完成された日本映画は(製作費や興行成績を考慮しても)アニメーション・実写ともに当分は生まれてこないでしょう。

映画を観ていないのに『鬼滅の刃』の事をこれだけ多く書いたので、熱心なファンが喜んでくれるかな。たくさんの「いいね!」を押してくれるかな。

箱入り娘とは…

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